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怖い話芸人のダイノジ大谷が、稲川淳二の超こわい話からBest5をピックアップ!背筋も凍るような恐怖体験をお届けします・・・

ダイノジ大谷の「ワンポイントえぇ怪談」

稲川淳二さんといえば、まずはこの怪談でしょう。シンプルなのにぞわっと怖い。
「ザ・稲川淳二」と名付けたくなる稲川怪談の基本形にして屈指の秀作です。「サーファーのお坊さん」ていう人物像がまたイイ味出してます。

長い遺体

それで泊まるはずの旅館なんですが、これがあんまり朝早いもんですから、まだこの要するにチェックインできない状況なんですね。

で「まあいいや。じゃあ入る前にひと泳ぎしようじゃないか。」と言うので、みんなそこでもって着替えちゃいましてね。
ウエットスーツを着て、それで板持って海出ちゃった。ああだこうだやっているうちに結構盛り上がっちゃいましてね、それでみんなあがってきたのが昼頃だったって言うんですよね。

「いや、随分泳いじゃって疲れちゃったな。」と見てみると、そのカレーも水も来なかった彼がいないんですよね。
「おい、あいつどうしたんだ?いないじゃないか。」って言ったら
「うん、いないね。」
「いや、どっかでもってかわいい子としけこんでんじゃねえか。」って言うんで
「そうだな。放っときゃいいや。」

で、また一息ついたので「ひと泳ぎしようか。」と言うんで、またみんな板持って出てって遊んでいた。

で、そうこうするうちにまたみんな戻って来て
「どうしようか。そろそろ旅館戻ろうか。」
「じゃあ、もうちょっとしたら帰ろうか。」
「なあ、ちょうど、あの、その頃になりゃあチェックインもできるし。」と。

見ると、やっぱりさっきのそのカレーも水も来なかった彼がいないので、
「あいつ、まだこないねえ。どこ行ったんだろうな。」って
「いやいや、どっか行って、どうせあいつ遊んでるんだから構わない。」と
「泊まるところは分かってんだから、いいじゃないか。」っていう話になって。

それでひとしきり泳いだ後、みんなでもって
「それ行こう。」ってんで旅館に行っちゃったんですね。

で、着いて、やっぱり暑いものですからね。
まずみんな風呂浴びたり、シャワー浴びたりして戻って来ると、夕食の時間になっちゃった。

で、夕食いただきながらビールなんか飲んで盛り上がっているうちに、さすがに疲れがあったんですね。
みんなバタバタ倒れて、その場でもって寝ちゃったんですね。

突然「ごめんください。」
「すいません、恐れ入ります。」
「ごめんください。」
「すいません。」

私のお店へ来るそのお坊さんがハッと目が開いてみると、もう真夜中だったんですね。
あら、寝ちゃったんだな、こんなとこで。

と、襖の向こうから
「恐れ入ります、すいません。ごめんください。」って言うんで
「はい、何でしょう?」
「あの、ちょっとよろしいですか。」って言うんで
「はい、どうぞ。」

ツーッとその襖が開くと、向こうにその旅館の女将が立っていまして、
「夜分に大変に申し訳ございませんが、今、玄関に警察の方がお見えになっているんですけども、ちょっとよろしければ来ていただけますか。」って言うんですね。
「何ですか?警察の人。いいですよ。」

で、階段降りて行ってみると、薄暗い玄関のとこに男が1人立っておりましてね。

「実は私こういう者なんですが。」と警察手帳を見せて、
「あの、突然で申し訳ないんですがね、ご一緒に来た中でまだお帰りになっていない方いらっしゃいませんか?」
「おお、いますけど。何かあったんですか?」
「いや、そのことでちょっとお願いに来たんですが。」
「いや、あいつ何かやったんですか?何か事件でも起こしたんですか?」
「いや、いや、そういう意味じゃないんです。」
「何かまずいこと?」
「え、すいませんが、ちょっと御足労願えませんか。」
と言うんで、

そのお坊さんが
「いや、いや、じゃあちょっと待って。友達今2人いますから、あと話してくるんで、ちょっと待ってください。」

で行って
「おい、起きろよ。ねえ、ちょっと起きろよ。おい、起きろよ。」と。
「今なんか知らないけど、警察の人が来ていて、その友達のことでお話聞きたいって言うんだけどさ、ちょっとおまえ付き合ってくれる?」
「しょうがないな。じゃあ行こうか。」
「行こうか。」と。

ほいで「すいません、みんな揃いました。」と。
「じゃあ、車に乗ってもらえますか?」
「そうですか。どこまで行くんですか?」
「あの、行きながらお話ししますけど。」

で、車に乗ると、その警察の人が
「実は、あの、昼に死体があがったんです。」



「何だよ、それ。」
「それでどちらの方か分からないんで、夜分と思いながら、昼からずっと探して歩いてこんな時間になってしまったんですが。仏さんのことを考えてみると、早めにそうやってどちらかの方か見つけてあげたほうがよろしいと思って、こんな時間になったんですが。」
「じゃあ、何、俺たちどうすりゃいいの?」
「ええ、誠に申し訳ないんですが、ご友人かどうか確かめてほしいんです。」
と、2人の友達が
「冗談じゃねえよ、そんなもん。自分の友達かどうか分かんない人間を、こんな夜の夜中起こされて、それで死体の顔なんか見たくもない。気持ち悪い。あの野郎帰ってきやがったらタダじゃおかねえぞ、本当に。もうバシバシ言ってやるから。」って行ったって言うんです。

で、着いたら、この大きなコンクリートの建物なんですが、病院の別棟みたいなもんなんでしょうかね。

で、「どうぞ、すいません。お入りください。」って言うんで入って行くと、長い通路があって、向こうにドアがあったそうですよ。
で、そこまで行くと警察の人が
「よろしいでしょうか?」言うんで
「はい。」

うちへ来るね、お坊さんが「はい」と言うと、他の友達が「いやだよ。俺たち、そんな見る義理も何もないんだから、おまえ坊さんなんだから、おまえが見ろよ。」と言う。
で、しょうがないからうちへ来るお客さんのその坊さんが
「じゃあ、私、あの、ちょっと確かめさせてもらいますから。」

で、ガシャンとドア開いた。

ちいちゃな電気が点いていて、目の前にベッドがあるんですよね、向こうに。

おかしいなと思ったのはベッドの上に何も乗っていないんですよね。
「あれ、いませんね。」って顔をすると、
その警察の人が
「あちらなんです。」って言うんですよ。
「ん?」と見たら、部屋の隅のほうに、こうシートをかぶったものが置いてあるんですね、地べたに。

おかしいじゃないですか、普通。普通そういう状況だったら、死体なんていうのはベッドの上にあるはずなのに、床に置いてある。

で、そこまで入って、友達2人は入り口で待っている。
警察の人が傍へ来て
「すいませんが、お願いできますか?」って言うので、うちへ来るそのお坊さん、しょうがないからしゃがんで
「分かりました。」

で、シートのところに手かけたんですね。

「いいですか?」
「どうぞ、どうぞ。」
「はい」

グッとめくりかけたんですが

「その瞬間に分かった。」って言うんですよね。

分かったと。普段意識していないけども、自分の友達のその髪型かどうか

「分かった。」って言うんですよ。

「えっ」と思ってフッと見たら、
「あ、おい、大変だぞ。大変だ。おい。おい、来いよ。」みんな来た。

自分の一緒に来た友達ですよ。あのカレーも水も来なかった、その彼ですよ。
「おまわりさん、死んでます?」と言ったら
「そうだ。」って。

「なんで?どうして?」



「いや、それが。」

ずっと見ていくと、ウエットスーツ着たまま眠るように彼は死んでいるわけですよね。

「じゃあ、すいませんが、こちらの家族の方にご連絡したいんで教えてもらえますか?」
「いやいや、そっち、すぐ今連絡しますから」って、友達の1人が走って行った。

電話のところへ。

で、その刑事さんも
「ちょっと、すいません。」って
「はい。分かりました。はい。ご友人の方が今確認しましてですね、確かに間違いなく。はい、そうです。ええ、ええ、ええ。」とやっていた。

で、うちへ来るそのお坊さんは手を合わせてお参りをして、それでこう様子を見ていて。

で、ふらふらこう見ていた。

もう1人の友人が
「おい。俺さっきから気になっているんだけど、おかしいと思わないか?」
「うん?」
「ちょっとおかしいと思わないか?これ床に寝ているだろ。それで見てみろよ。人1人の長さってのは、大体決まっているものだぞ。これ、やけに長くねえか?」と。

確かに気にはなっていたんです。長いんですよ、シートかぶっているその死体が。

戻ってきた警察官に
「おまわりさん、これ随分長いですよね?」って言ったら
「ええ。」
「何ですか?」
って聞いたら
「いや。」
「これ見てもいいですか?」と言うと
「ええ、構いませんけど」。

で、またしゃがんで、クッとシートを持ったんですね。
電話していた友達が戻ってきた。3人がじっと見ている。うちへ来るそのお坊さんがクーッとめくっていった。

その友達の顔があってウエットスーツがあって、ズーッとめくっていったんですね。

そうすると、腰があって太ももがあって、膝のあたり、チラッと何か見えた瞬間に暗闇の中でもって、こう灰色のようななんかモヤモヤモヤしたものが見えたんです。

「何だ?」髪の毛らしいんですね。何だろうと思って。
「ワァッ!」っと驚いた。というのは、友達のこの足のところに、ばあさんがグッと抱きついてた。もちろん、これも死体ですよ。

「おまわりさん、これ何ですか?」
「いや、これあの4日前にこの海に落っこって行方不明になったばあさんなんだ。」と。
「4日前のばあさん?そのばあさんの死体がどうして俺の友達の膝に抱きついているんだ」と言ったら、警察官が
「いや、その理由が分からないんで、今困っているんですよ。」
「でも稲川さん、新聞にはサーファーの死と、お婆さんの死は、別々に載ったんですよ。」
って、お坊さん言ってました。


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ダイノジ 大谷ノブ彦
生年月日:1972年 6月8日
血液型:B型
出身地:大分県 佐伯市
趣味・特技:ロックンロール/
育児/文章を書く/グルメ

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